コンピュータミュージック スーパー・ビギナーズマニュアル

前書き
あなたのデスクにはきっと、まだ真新しいパソコンとMIDI音源が置いてあるんだろう。この四角いお弁当箱風のMIDI音源。こいつと仲良しになるためにはどうしたら良いのだろうか。やっぱ誰かとつき合おうと思ったらそいつのことを大好きになって敬意を持つのが大事だよね。そうして丁寧に優しく扱ってあげるのが基本ってもんだ。

だいたいキミはこのMIDI音源くんのことを大切にしているのかい?
実はほこりがかぶって最近はあんまり電源すら入れていないんじゃないかい?
買ってきたばかりの頃はとっても大事にだいじにしていたのにね。
それじゃあMIDI音源くんに嫌われるわけだよ。そりゃあいい音で鳴ってくれないわけだよ。
「そんなバカな、MIDI音源はしょせん冷たい機械じゃないか」
・・・って? う〜ん、その考えがだいたいイケナイよね。 MIDI音源はしょせん機械だなんて思っているうちは、ぜったいいい音楽を鳴らせません。
 だってこいつはつき合うキミ次第で変わるとってもウブで素直やヤツなんから。
 「やっぱりデジタルは非人間的で冷たい、やっぱりアナログは人間的で暖かい」なんて決まり文句みたいに言う人と同じで思考力が10年前で化石化してるよ。こいつにだって、やっぱり普通の楽器と同じように人間らしい感情込めてあげてほしいんだ。HOTな思いをそそぎ込めば、熱くノリノリのビートを叩き出すし、どうしようもないブルーな気持ちの時はとってもモノ悲しいメロディを歌ってくれる。ね、まったく普通のアナログな楽器と同じでしょ。

感情の込め方は楽器によっていろいろ違う。例えばバイオリンのような弦楽器の左手は常に細かく震えている。右手に持った弓も激しく、またあるときには優しく弦とコンタクトしている。またトランペットのような金管楽器ではマスピースをくわた唇が血がにじむまで強く締め付けている。熱いブレスが管をめぐって唸りをあげている。
同様にしてMIDIにはMIDIの感情の入れ方があるんだ。それさえマスターすれば、この冷たい機械でしかなかったMIDI音源がとってもいきいきとした楽器に生まれ変わることが出来るんだよ。 あなたの感情をぶつければぶつけるほど、使えば使うほどその表現力は熟練し高度な作品をつくることが出来るようになるんだ。「デジタル楽器が冷たい」のはただ単にあなたの扱いが冷たいからだけさ。いいかげんに使えばただの箱。使いこなせば立派な芸術創作ツール。これはピアノだってドラムだって絵筆だってカメラだって同じことさ。
「いやあ、シーケンサーなんて所詮便利なテープレコーダーでしかないですから」
なんて言ってるうちは愛がぜんぜん足りないね。だったらシーケンサーくんに失礼だから、はじめっから普通のテープレコーダ使いなよ。さ、帰った帰った。はっきり言うけどさ、ちょっとぐらい指が動くからってリアルタイム入力で何でも出来ると思ってちゃだめだよ。パソコンのディスプレイの前でMIDIデータと一対一で向き合って初めて本当のこいつの良さが、本当のすごさが分かるんだ。リアルタイムで演奏するだけでは表現出来ない技がいっぱいあるんだぞ。ステップ入力って彫刻作品を彫っていくのとちょっと似ているね。ひとつひとつ時間をかけてじっくり芸術作品を創り上げていくんだ。横で見ている人にとっては退屈な時間だけど、実際手がけている人にとってひとつひとつの作業はとってもかけがえのないものなんだ。いろいろ曲をいじっていて気がついたら朝になってたなんて珍しいことでも何でもない。でもそれが全然苦痛でも何でもない。そんなフレンドリーなつき合いが出来るのがこのDTMなんだ。
「そっか、MIDI音源ってアコースティック楽器の代用品なんだ、でもやっぱ所詮モノマネはモノマネ。偽物は『本物』に勝てないよ」・・・だって? よく言うんだよそういうこと。ちょっとばかりDTMを知ってる文化人風の輩が偉そうにね。そういうヤツこそ知ったかぶりの偽物だよ。MIDI音源というのはアコースティック楽器の代用「も」出来るのであって、それがすべてなんじゃない。代用のためのシュミレーションテクニックは大切だ。既成の楽器の個性を知る勉強にもなる。それぞれの個性溢れる楽器たち「音楽」というものを表現するためにどんなやり方をしているかがよおく分かるんだ。ただそれはそれでモノマネで終わってはいけない。

MIDI音源はいわゆるシンセサイザーでもあるから、自分だけの音を自由に創ることだって出来る。また楽器音の他にいろいろな効果音までもプリセットされている。だからキミはMIDI音源一台だけで既成の楽器音から電子音、自然界の音、ノイズ、世の中にあるありとあらゆる種類の音を手に入れているというわけなんだ。とっても贅沢三昧出来るんだよ。そしてそれをキミの自由な意志で自由に組み合わせて自分だけの音楽を創り出す。誰もをそれをじゃまするヤツなんかいない。くたびれて帰っちゃうプレイヤーやギャラの文句をいうエンジニアもいない。
自分が納得いくまで何時間やってもいいんだ。こんなに自由で個性的でオリジナルなものはないじゃないか。この世界でたったひとつの自分だけの音楽を表現すこと、これがこの本の目的でありSpritsなんだ。
 ちょっと話が難しくなっちゃったけど、アコースティック楽器のシュミレーションというのは必要なことではあるけれど決してゴールではなく、目的でもなく、自分だけの新しい音楽を創り出すための最初の1ステップでしかない。
だから似てる似てないとか、本物だ偽物だという議論はまったく無用なんだってことさ。大切なのは世の中にあるすべての音とどれだけ楽しくつきあえるかってこと。そして自分だけの、世界でひとつだけのステキな音楽を作れるかってことなんだ。今までの楽器以上に自分自身の音楽を最大限に表現出来るのがMIDI音源でありコンピュータ・ミュージックなんだね。
 音楽って今までは誰かが創ったものを無理矢理与えられるだけのものだった。流行っている音楽も芸術と言われるクラシック音楽もどこかの誰かが作ったものだった。そしてどこかのだれかの好みで勝手にセレクトされものだけがマスメディアを流通してボクたちの耳に届くというものだった。
でも、これからは音楽というものは自分自身で作りだす自己表現になるんだ。そして自分自身からどこかのだれかへと発信できるメッセージになるんだ。インターネットも本格化し、今そんな時代がやって来ようとしている。そうなったらもうキミも立派なアーティストだよね。
さ、天平と一緒に始めようじゃないか。

Worksへ戻る

(C)Copyright Tenpei Music Artists.Inc. All rights reserved.